南京の真実


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12月12日
日本軍はすんなり占領したのではないかという私の予想はみごとにはずれた。黄色い腕章をつけた中国人軍隊がまだがんばっている。ライフル銃、ピストル、手榴弾、完全装備だ。 警官も規則を破ってライフル銃を持っている。軍も警察も、もはや唐将軍の命令に従わなくなったらしい。これでは安全区から軍隊を追い出すなど、とうていむりだ。朝の八時に、再び砲撃が始まった。

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12月17日
(中略)軍政部の向かいにある防空壕のそばには中国兵の死体が三十体転がっている(写真18)きのう、即決の軍事裁判によって銃殺されたのだ。日本兵たちは、町をかたづけはじめた。



ラーベの日記を裏付ける日本側資料

続・現代史資料6軍事警察/みすず書房/P55
第十軍(柳川兵団)法務部陣中日誌

<十二月十四日 晴 自洪藍埠至南京>
一、西村特務兵ヲ連絡ノ為洪藍ニ残置スルコトトシ同人ニ対シ田嶋、増田両部員同地ニ到着シタルトキハ速ニ南京ニ在ル
法務部ニ追及スベキコトヲ伝ヘ両部員ト共ニ追及スベキコトヲ命ジタリ <主力ノ南京ヘ移動>
二、小川部長及加藤録事ハ午前十一時軍司令主力ト共ニ洪藍埠出発自動車ニ依リ午後三時三十分南京城中華門ニ到リ同門ヨリ入城同五時三十分 南京城内建康路ト奇望街トノ交叉点ニアル上海商儲蓄銀行ニ軍司令部ヲ設営シ法務部ハ同銀行階下ノ一室ニ宿営ス(略)

<十二月十五日 晴 南京>
午前十一時三十分上海派遣軍法務部菅野法務官来部シ明十五日午前十一時頃陸軍省法務局局員大塚法務官事務視察ノ為当部ニ出張レラルル旨ヲ 伝ヘ、尚小川部長ニ対シ軍律施行竝被告事件事務ニ関シ約一時間打合セヲ為シ帰還セリ(以下略)


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12月22日
軍事警察本部からだといって日本人が二人訪ねてきた。日本側でも難民委員会をつくることになった由。従って難民は全て登録しなければならない。 「悪人ども」(つまり中国人元兵士)は特別収容所に入れることになったといっている。登録を手伝ってくれないかといわれ、ひきうけた。そのあいだも、軍の放火はやまない。

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12月26日
(略)  ミス・ミニ・ヴォートリン。実はこの人について個人的にはあまりよく知らないのだが、アメリカ人で、金陵女子文理学院の教授らしい。大変きまじめな女性で、自分の大学に男性の難民を収容するときいて、びっくり仰天して反対したそうだ。最終的には、男女別々のフロアにするからという条件で承諾した。
 ところで、この人に恐ろしい事件が起こった! 彼女は自分が庇護する娘たちを信じて、めんどりがひなを抱くようにして大切に守っていた。日本兵の横暴がとくにひどかったころ、私はミニをじかに見たことがある。四百人近くの女性難民の先頭に立って収容所になっている大学につれていくところだった。
 さて、日本当局は、兵隊用の売春宿を作ろうというとんでもないことを思いついた。何百人もの娘でいっぱいのホールになだれこんでくる男たちを、恐怖のあまり、ミニは両手を組み合わせて見ていた。一人だって引き渡すもんですか。それくらいならこの場で死んだほうがましだわ。ところが、そこへ唖然とするようなことが起きた。我々がよく知っている、上品な紅卍字会のメンバーが(彼がそんな社会の暗部に通じているとは思いも寄らなかったが)、なみいる娘たちに二言三言やさしく話しかけた。すると、驚いたことに、かなりの数の娘たちが進み出たのだ。売春婦だったらしく、新しい売春宿で働かされるのをちっとも苦にしていないようだった。ミニは言葉を失った。

・参考文献 :
* 南京の真実/ジョンラーベ/講談社/1997年
* 続・現代史資料6軍事警察/みすず書房/1982年

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